ワンビル店工芸菓子「希望の藤」

ワンビル店工芸菓子「希望の藤」

2025年4月24日、福岡・天神の新たなランドマーク「ONE FUKUOKA BLDG.」に、「如水庵 ワンビル店」がグランドオープンしました。

福岡ビル、天神コア、天神ビブレの3棟を一体的に再開発する「天神ビッグバン」プロジェクト。その象徴のひとつとして誕生したこの場所は、天神の未来を担う新たな拠点です。

そんなワンビルに、1954年天神西鉄街店に飾られていた看板とともに70年ぶりに同じ地へ還ってまいりました。

この大きな「五十二萬石」の看板の横に飾られている「工芸菓子 希望の藤」「上生菓子 はさみ菊」。 どちらも和菓子職人によって手作業で作られた「和菓子」です。

戦国時代に生きた、黒田如水(くろだ じょすい)が真っ暗な土牢に閉じ込められた際、光も風も届かないその中で、彼を生かし続けたのは、ほんのわずかな隙間から見えた一輪の“藤の花”。 枯れずに咲くその花を見て、生きる希望を失わずにすんだ——と言われています。(※福岡市博物館より引用)

工芸菓子《希望の藤》は、この逸話にインスピレーションを受けて生まれました。

制作者の佐藤理子(さとう まさこ)さんにインタビューしてみました。

ワンビル店に飾られている工芸菓子「希望の藤」

——ワンビルに飾る工芸菓子の話を聞いた時どんな気持ちでしたか?

佐藤さん:お話をいただいたのが昨年の10月頃、はじめは「こんな素敵な場所に出品できるの?」と驚きと嬉しさと期待感でいっぱいになりました。が、すぐに、こんな大役が自分に務まるのか、無事に完成までたどりつけるのかと、とてつもない不安が押し寄せました。

如水庵といえば藤、といえるほど象徴的なこの花をどんな風に仕上げたらよいのだろうと、そこから2か月間、ぼんやりといろんなパターンの表現方法を考えていました。年が明け、いよいよ作品スペースのサイズが決まり、デザイン画を描き起こし、制作に着手…となるのですが、この間のプレッシャーが半端なかったです(笑)。

制作を始めてしまうと、もともとモノづくりが好きな私にとっては大好きな時間で、黙々と(周囲に言わせるとニコニコと)進めていくことができました。

希望の藤:イメージデザイン画

——そもそも工芸菓子とはなんでしょうか?

佐藤さん:和菓子における工芸菓子とは、製菓材料を使って山水花鳥風月などの自然風物を写実的にかつ芸術性豊かに表現したものです。

「雲平(うんぺい)」という粉糖と寒梅粉を混ぜて練ったものや、「餡平(あんぺい)」という白餡に砂糖ともち粉、米粉を混ぜ合わせて蒸したものなどを主に使っています。

———ということは、食べることができるのですか…?!

佐藤さん:芯材(※1)以外の部分は食べられますが、衛生的に作ってはいないのでおすすめ出来ません。「雲平」や「押し物(藤の花の土台部分:砂糖に白餡と寒梅粉を混ぜたもの)」などは、毎月出ている季節の干菓子も使われることが多いので、食べてみたい方はそちらをおすすめします(笑)。

(※1:写実的につくるためにはどうしてもお菓子の素材だけでは重力に負けてしまいます。そのため、芯材として木材や発砲スチロール、針金などを使っています。見えている部分は全てお菓子で出来ています。)

———こだわったところ、苦労したところはどこでしょうか?

佐藤さん:如水庵カラーとも言える紫の色具合と、自然に揺れている様子を表した花序(かじょ)の緩やかなカーブには細心の注意を払いました。花序の茎を細く保ちつつ花をさす技術は今回幾度も試作を重ねたどりついたものです。木の幹は生地への着色だけでなく、筆で色を重ねたり、焼きゴテを当てて風合いを出しています。

花は花序6本合わせると全部で350~400個ほど作りました。

———400個…!制作にかかった時間はどのくらいですか?

佐藤さん:構想から完成まで約3か月、250時間くらいでしょうか。

花びらをひとつずつ作って、並べて、整えて——それを400回以上…!

250時間は気が遠くなりそうですが、花びら一枚一枚に向き合ったからこそ、見る人の心に残る藤になったと感じました。

和菓子職人 佐藤さんより皆様へ

工芸菓子という魅力的な世界を少しでも多くの皆様に知っていただければという思いで心をこめて制作しました。藤の咲き誇る風景、さわやかな心地よい風をこの作品から少しでも感じていただければ嬉しく思います。

佐藤さんありがとうございました!

天神にお越しの際はぜひ、如水庵 ワンビル店にお立ち寄りくださいませ。